小さな天然酵母のパン屋さん。
「トイレ借りるよ」
おじさんが慌てて入って来て、さっさと店の奥に消え、
用を済ませると何も買わずに出て行った。
店のご主人はいたって平静で気にする様子もない。
なんてやさしいパン屋さん!
でも…
近くにコンビニもスーパーもある。
間口の狭いこのパン屋に客用のトイレがあるようには見えない。
私は堪えきれなくなって、言った。
「なぜあの人はわざわざこの店を選んだんだろ」
「?」の後、ご主人が笑いながら、
「あの人は粉の業者さんです」。
その言葉の直後に粉の袋をしょって、「あの人」が入って来た。

110419

天然素材パン工房 リトル・トリー
その材料選びには圧倒的な安心感があった。
妊娠中は一山越えてウォーキングがてら買いにいき、
家に帰ってうっかり馬鹿食いの危険な店。
1歳のお誕生会。大人たちがケーキをパクつく隣りで、まだ砂糖の味を知らなかった小春はここのパンを嬉しそうにかじっていた。
本当にお世話になった。

だけど、4月いっぱいで閉店する。
原発事故から色々悩まれた末に出した答え。
もう私たちの暮らしは今までと同じではない。